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おもちゃクリエイターの高橋晋平さんいわく、おもちゃ市場は決してシュリンクしない。なぜなら、クリスマス需要が堅調だから。加えておもちゃ業界には、大ヒットを飛ばさなければならないという重大な使命があるというのです。11月20日にKibidangoオフィスにて行われたトークショー、「22世紀のものづくり論」の後編です。

誰かが共感したらオニのような速度で広まっていく、純粋な“遊びの力”

松崎:最初にFacebookの可能性を見出した機関投資家のピーター・ティールが、起業家の卵たちに必ずする質問が、「あなただけが知っていて、まだほかの人が知らない問題がありますか?」。あなただけが気づいている問題が大きければ大きいほど、大きなビジネスになるというんです。

高橋:その通りだと思います。

松崎:まだ誰も知らないことって、見つけるのが難しいと皆思っているかもしれませんが、実はそうでもないと思うんです。自分の身近なところに、案外、自分だけしか知らないことがあるのではないか。

高橋:発明もそうですね。発明って、良し悪しを考えなければ、意外と簡単だと思うんです。共感する人がいれば、それが自然に広がっていく。トライ&エラーというか、いっぱい考えて、その中のどれかが皆の共感を得られればめっちゃ盛り上がるみたいな。

遊びの領域でいうと、じゃんけんぽいぽいとか、コインサッカーとかいう、変わったルールの遊び。あれを誰が最初に考えたかわからないけど、ネットもない時代から皆に周知されているじゃないですか。どうやって全国津々浦々まで広まったのか不思議ですよね。おそらく、純粋な遊びの力で、誰かに言いたい、伝えたいみたいなことだけで広まっていったんだと思うんです。

今はネットがあるから、広がるスピードは昔の比ではないはずなんですよ。誰かが手を動かして、そこにあるもので新しい遊びをつくったら、発明だからその時点では誰も知らないんだけど、それがオニのような速度で広まっていく――。

 この間『コロコロアニキ』の「コロコロ創刊伝説」で読んだんですが、大ブームになったミニ四駆の開発担当者が当時何をしたのかというと、「ただ子どもたちとあそんでいただけ」だというんです。“ミニ四駆あるある”の、シャシーを軽量化するためにキリで穴をあけたり、ボディにミカンが入っていた網を張ったり、車がコースをはずれないようにカーブに待ち針を立てたりするのを、開発担当者が子どもたちといっしょになってやりながら、新しい商品を追加したりしていくうちに、大きなブームになっていったという話です。

 そういう純粋なつくり方を、ぼくもしてみたいと思っているんだけど。

松崎:クラウドファンディングでも似たようなケースがありますよ。ユーザーからどんどん要望が寄せられて、それに応えてサンプルがどんどん改良されていくような。クラウドファンディングは作り手とユーザーの距離が近いので、モノづくりの観点からはすごくいいと思いますね。

以前、工業デザイナーの秋岡芳夫さんという方が、作り手と使い手の交流を促進するモノ・モノという1,100人規模のコミュニティを主催していましたが、クラウドファンディングもこれと同じような機能を持っていると思います。何万人、何十万人になると顔が見えなくなってくるけれど、1,000人ならぎりぎり顔が見える。結果的に何万人、何十万人が商品を買うようになったらそれはそれでいいことなんですが、最初は小さなコミュニティからスタートするというのが、モノが生まれる過程にとって大事なことのような気がします。

おもちゃは世代の共通言語、だからおもちゃ屋には大ヒットに挑み続ける責任がある

高橋:1,000人のコミュニティというお話に共感もするし、今の自分のキャパシティで考えるとそれが限界だとも思うんですけど、おもちゃということに回帰して考えると、今こそ、というか、これから先こそ、大ヒットを狙っていかなければならないと思っています。それがおもちゃ屋の使命だと思っているんですよ。

 人口減、少子化、しかも今の子どもって例えばスマホとかYouTubeとかに夢中なわけじゃないですか。だから市場は当然のように縮小していくと思われているんですが、日本玩具協会が出している調査データによると、2018年度の玩具の市場規模は、この18年間の最高水準を記録しているんです。その理由については、大人が支えているとか、トレカが好調だからだとか、いろいろな分析があるんですけど、ぼくなりの仮説もあります。

 将来が不安視されている商材はほかにもあって、例えば書籍とか音楽CDとかアパレルとか。この中でおもちゃは、クリスマス需要が突出しているんです。最近はハロウィンも大きいです。両親と祖父母が子どものために支出するので、この売上は決して下がらないです。

 加えてぼくらが挑まなければならないのは、ぼくらが今大人になって、昔大ブームだったミニ四駆を子どもといっしょにやってみようかとか、ガンプラをつくってみようかとか、そういう懐かしいやつ。二世代マーケティングができるじゃないですか。

 皆が同じテレビ番組を見ずに、それぞれがYouTubeを見るようになって、全員の共通話題ってどんどん減っているんですよね。おもちゃも何十万個というヒット商品は少なくなっています。このままいくと、あるあるネタが消滅してしまう。あるあるネタというのは人にとってとてつもなく重要なもので、おもちゃはその媒体。「それ懐かしいねぇ」というものがなくなってしまったら、ぼくたちの責任。おもちゃ屋は、少なくとも、大ヒットに挑み続けなければならないんです。だからそろそろ気泡わりみたいなものはやめなくちゃいけないかなって(笑い)。

 「多様性を重視せよ」「みんな違ってみんないい」は、もちろんその通りなんだけど、「かめはめ波、打ちたかったよね」みたいな共通言語も、やっぱりとっても大事なんです。

――あるあるネタは、人と人の距離感を縮める最初のとっかかりだったりしますよね。

高橋:そうそう。お笑いでも、あるあるネタは鉄板です。

松崎:ぼく、小さいころアメリカに住んでいたのでなんとなく感じるんですけど、アメリカと日本のコマーシャルって全然違うんですよ。アメリカのコマーシャルってどんな人にでもわかるようにつくられているんですが、日本のコマーシャルはそのネタを知らないとわからないものがすごく多いんです。そこが日本人の良さでもあり、特殊性でもあるのかなと思うんですけれども。

 「これであそんだよね」みたいな共通の話題が、多様化と同時になくなっていくというのは、ひとつの現実として考えておかなくてはいけないことなのかもしれませんね。

リアルのおもちゃが元気な理由はサンタの功績?箱の役割とは――?

高橋:おもちゃ市場が縮小しないことについての仮説はもうひとつあって、箱、です。書籍やCDやアパレルは中古品市場が成立していて転売、転売でいけるけど、中古のおもちゃは人にあげられないし、ほしくないですよね。きれいな箱に入った新品であることが必須なんです。だから価格が下がらない。おもちゃってそういう特殊な商品群なんです。

箱の話ともつながるんだけど、高額な金型を使ってつくられるおもちゃが多い中で、ぼくも会社を辞めて間もないころは、安い金型をつくるベンチャー企業や、3Dプリンターに興味を持っていたんです。でもね…。

例えばぼくらの時代だとキン消しというのがありましたが、仮にそのデータを買うことができて3Dプリンターでつくれますよ、となったときに、自分で出したキン消しは、本当にキン消しなのか――? おそらく違うんだと思います。カプセルから出てくるのがキン消しであって、自分が出力したものはキン消しじゃない。

松崎:本物かどうかって、モノの購入を決めるときの重要な要素ですよね。皆が何でもできるようになった時代に、何が本物かという基準が求められているというか。それが本物であることの理由について、皆が腹落ちできるかどうかがすごく大事なような気がしますね。

高橋:遊戯王みたいなトレーディングカードもぼくは大好きなんですが、あれは本当はカラーコピーすればあそべちゃうわけです。それなのに、4枚集めないとできないとか言って、買うわけですよね。あそぶだけならコピーでいいのに、そうしないんです。CDだったらコピーでいいし、本は図書館で借りるのに。これ、めちゃめちゃ不思議だなぁと思って。

松崎:それをどうやって手に入れるかとか、開け方とか…。一連の体験と言ってしまうと平べったくなってしまうけど。

高橋:やっぱりそれが、サンタの功績なんですよ。リボンを解いて、包み紙を取って、箱を開いて、「わぁー」みたいなことを子どものころに経験した中で、おもちゃにとって箱を開けることが遊びのひとつだとしたら、開けた瞬間に90%終わる(笑い)…のかもしれないけど。

未開封の箱には、何か特別の価値があるんです。ガンプラとかも、買って箱を開けたときは超嬉しいけど、“積みガンプラ”になっちゃって。いつか組み立てよう、と思って積んでおく、みたいな。

松崎:ぼくもそうですね。LEGOが好きなので、大人向けのキットみたいなのをたくさん買うんですけど、すぐには組み立てないですね。

高橋:常にコストとの闘いを強いられる中で、おもちゃの場合、まず箱とか取説のスペックダウンということになるんですけど、自分でつくるゲームとかの箱は、絶対スペックダウンしません。それは命を削るのといっしょだと思ってますから。

松崎:これからのモノづくりは、いったいどのような方向にいくんでしょうね。

高橋:ライブ感とか、一点モノとか、あるかもしれませんね。あと、ぼくは「逆EC」と言っているんですけど、そこに来ないと手に入らないものとか。さらには、皆で会って、あそんで、遊び切って終わり。入手は不可能、みたいな。

松崎:100人でないとあそべないとか。イベントに行かないと楽しめないおもちゃとか――。夢はますます広がりますね。

高橋:売り方も、時代に合わせて変わっていくのだと思います。売り手も買い手も納得できて快適な新しい売り方を、ぜひ松崎さんに発明してほしいです。

――高橋さん、松崎さん、今日はありがとうございました。

イベント小話:アラビックヤマトケーキでお2人のお誕生日をお祝い!

なんと、高橋さんと代表松崎は誕生日が同じ!
という事で、弊社社員がアラビックヤマトをモチーフにしたロールケーキを作ってきてくれました~
お誕生日被りにも驚きですが、ケーキのクオリティの高さにもビックリでした!

 

今後も随時さまざまなイベントを開催予定!
今回残念ながら都合がつかなかった方々も、ぜひ、次回イベントへお越しくださいませ。
面白いモノ、話、人との繋がりをご用意してお待ちしています。

 

https://kawaraban.kibidango.com/?p=6193&preview=true
【前半】あえてニッチな層にアプローチ。
「気泡わり専用アラビックヤマト」にかけた思いとは――?

 

■登壇者プロフィール

▼高橋晋平
株式会社ウサギ代表取締役。おもちゃ・ゲーム・遊びの開発を行う。∞プチプチ、アンガーマネジメントゲーム、OQTA、お笑いノート、気泡わり専用アラビックヤマトなど。TED.comでアイデア発想法講演。近著に『企画のメモ技』(あさ出版、2018)Twitter→@simpeiidea

▼松崎良太
きびだんご株式会社 代表取締役。株式会社日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)にて投資銀行業務に携わった後、2000年に楽天に入社。執行役員として楽天グループのM&A案件や新規事業立ち上げを行い、2011年に独立。クラウドファンディング好きが高じて2013年にきびだんご株式会社を立ち上げた。大のクラウドファンディング好きで、Kickstarterをはじめとしたクラウドファンディングサイトで400件近く支援、新しいモノを常に発掘している

 

(文:ライター 坂本潤子)