私が敬愛してやまない、世界のクラウドファンディング界を牽引するKickstarterが、先日「誠実かつ明確なプロジェクトの表現について(原題:”Honest and Clear Project Presentation”)」なるページを公開し、プロジェクトオーナーがプロジェクトを公開する際に守ってほしい自らのガイドラインを更新しました。


プロジェクトの提示は誠実かつ明白に(原文まま)

あくまでレコメンド、としながらもこれらのガイドラインを満足しない場合にはプロジェクトのサスペンド(運営によるキャンセル)もあるという、厳しい内容となっています。

新たにNGとなった表現としては以下のようなものが含まれます。

  • 「世界初」「世界最高」「究極の」などの濫用
  • 未完成にも関わらず、まるで既に存在するかのような記載
  • まだ販売価格が決定していない中での「販売価格50%オフ」等の記載
  • 口先だけの保証や守れない約束をする
  • 達成しても実際のプロジェクトが遂行できない低すぎるゴール設定
  • 5時間で達成!的なバッジをプロジェクトの画像や説明文内に記載
  • メディアのロゴを不適切に多数記載

このなかで私自身がいくつかポイントだと思う項目について、私見を交えながら解説していきたいと思います。

「世界初」「世界最高」「究極」の濫用の禁止

試しに「究極の クラウドファンディング」と検索するだけで200万件の検索結果が出てきます。それほどこうした表現はクラウドファンディングの世界ではある意味当たり前のセリフになっているわけですが、同時にこれらの言葉の濫用は世の中に多くの「究極・世界最高の」プロダクトを生み出す結果となりました。

やろうとしていることが本当に究極のものであれば良いのですが取り方によっていかようにも解釈ができるものになってくると、使い方を間違えてしまうと安っぽいテレビ通販のようになってしまいます。

きびだんご自身も、海外メーカーのプロダクトをクラウドファンディングの仕組みを通じて日本に紹介する「きびたん(きびだんご海外面白商品探索部)」というプログラムを運営しているが故に、自社が開催するプロジェクトでも厳格に運用していきたいと考えています。

まだ販売価格が決定していない中での「一般販売価格から◯◯%オフ」等の記載

Kickstarterなど海外のクラウドファンディングでは、実際のプロダクトがまだ開発中で、量産が始まっていないものがほとんどです。メーカー側ではある程度の小売希望価格のイメージはあるものの、実際にはまだ製造コストすら確定しておらず、最終的に小売店で一般販売される際には大幅に価格が上がったり、逆に安く売られたりするケースもあります。

一方、日本のクラウドファンディングの場合には、その商品がどのようなステージにあるのかを見極めることが大事です。もし海外ではすでに販売されている商品なのであれば、販売予定価格は多少の上下はあってもほぼ実際の価格に近いものとなっているはずです。

問題になるのはむしろ、この予定販売価格を不当に高くし、あたかも非常に大きな割引価格で販売しているように見せかける、いわゆる「二重価格(有利誤認の不当表示)」です。これはクラウドファンディングに限らず、厳しく規制されています。

二重価格表示(消費者庁)

クラウドファンディングの難しいところは、そもそも最終的な販売価格は決まっていないものの、最初に勇気を出して(それこそ商品を手にとってみる機会もなく)お金を出して支援していただいた支援者の方々に報いたいという善意の気持ちから、クラウドファンディングを行う事業者が実際の販売予定価格よりも安く商品(特典)を提供するケースが多いことです。

「お得であることを、支援者の人たちにもわかってもらいたい」という善意の事業者がほとんどである一方、「実際に想定している販売価格よりも予定販売価格を高く表示して、消費者に有利であるかのように見せかけ、一定期間が過ぎたところで安く販売してしまおう」というような悪意を持つ事業者が出てきてしまうと、支援者が騙されてしまう結果となります。個別の事業者がきちんと法令遵守の考えを持つことが大事です。

口先だけの保証や守れない約束をする

そもそもクラウドファンディングが通常のショッピングと違うのは、まだ商品がこの世に存在せず、実際に手元で見たり触ったりすることがない状態の時に、支援しようとする人達が「先にお金を払う約束をしなければいけない」ところにあります。

通常のショッピングであれば、商品は店頭などに展示・陳列されていて、実際に手に取ってみたりできます。また予約販売であればたとえ手元には商品が届かなくても、実際に生産・販売そのものは決定しているために少し待つだけで安心してお金を払うことができます。

クラウドファンディングは違います。まだ当のメーカー自身が、商品がどれくらいの注文が集まるかがわからず、また生産した際にどれくらいの品質でそれができるのかが確実にはわかっていないケースすらあります。その中でいたずらに「必ずできます」というような約束はできないはずです。

にも関わらず、「◯月◯日までに確実にお届けします」というような、実際に果たすことができるかどうかわからない約束をすることは、支援者を騙すことになりかねず、注意が必要です。以前よく「クリスマスの贈り物にどうぞ」というようなプロジェクトがKickstarterに登場していましたが、実際には生産が計画通りに進まず、期日通りに商品が届かず炎上するようなものがたくさんありました。

支援者側の立場からは、クラウドファンディングの商品をある決まった期日(誕生日、結婚式、記念日)などに誰かに贈ろう、という考えは正直おすすめしません。

達成しても実際のプロジェクトが遂行できない低すぎるゴール設定

みなさんはクラウドファンディングの目標金額の表示方法にふたつの種類があることをご存知でしょうか?Kickstarterやきびだんごをはじめ、多くのクラウドファンディングの仕組みは「目標金額を一定期間に達成することで、初めてプロジェクトが実行に移される」というものでした。これを「All or Nothing(0か100か)」と呼んでいます。

ところが、このルールだとある特定のケースにはなじまない事態が発生します。それは「プロジェクトの目標金額に達成するしないに関わらず、プロジェクトは実行される」というケースです。例えばですが、映画の上映に関するプロジェクトで、映画自体の上映はすでに決まっているものの、少しでも多くの資金が集まれば、できることが増える(例:広告宣伝により多くのお金を使える)というようなケースです。

また、海外商品の輸入販売などにクラウドファンディングが使われる場合にも、そもそも輸入販売することは既に決まっていて、単純にPRのためにクラウドファンディングを開催するようなケースもみられます。

このニーズに応えるために、多くのクラウドファンディングでは「Flexible Funding」や「All-In」という別の仕組みを提供しています。目標金額の達成の成否に関わらず、特典の提供が約束されているものです。プロダクト関連のプロジェクトにこの仕組みを使った場合には、どちらかというと商品の購入予約に非常に近いものと言えます。

KickstarterやKibidangoでは、この「All-In」という仕組みはあえて提供していません。そもそも目標金額が達成されないのに約束したことが実行できるのであれば、その目標金額そのものに意味がないからです。

そのため、本当に目標金額に到達しなければ、プロジェクトオーナーも資金が手に入りませんし、支援した人たちの手元にも約束された特典は提供されません(プロジェクトが未達成に終わった場合には、支援したお金が決済されることもありません)。それだけ真剣かつ「プロジェクトが達成しなければ、プロジェクトそのものが実現しない」誠実な仕組みとも言えます。

もちろん、システムの裏をかくことはできます。本来はプロジェクト実現のためには100万円が必要なのに、目標金額を10万円と安く設定すれば目標金額を達成することはより簡単になります。

実際にKickstarterでは、本当はそれだけではプロジェクトの完了が保証されていないにも関わらず、著しく目標金額を低く設定するケースが多く発生し、問題となりました。同社がウォートン大学と共同で行なった2015年の調査によると、Kickstarterで開催され資金を集めたプロジェクトの9%が、最終的に商品が完成しなかった、もしくは商品が支援者に届かなかったと報告されています。

Kickstarterフルフィルメントレポート(ペンシルヴァニア大学による分析)

一方で、いたずらに安く目標金額を設定してしまうと、支援者からすると「なんでそんな低い目標金額なのにわざわざクラウドファンディングをやるの?」と疑問を呈されてもおかしくありません。

プロジェクトオーナーは誰なのか

また、今回の発表の中では米国が主たる市場であるKickstarter自体は特に問題視していませんでしたが、私たちは「誰がこのプロジェクトを行なっているのか」もプロジェクトの透明性を確保する上で極めて大事であると考えています。

そのためには、プロジェクトを主体的に運営する事業者の名前がきちんとわかることが大事です。その一つの方法が、特定商取引に関する法律に関連する表記で、Kibidangoではこれを各プロジェクトごとにページの最後に必ず記載するように義務付けています。個人事業主で、住所などが特定されたくない場合には特例として一旦我々が把握しておきトラブルが起こった際には問い合わせを受けた場合にのみ公開するケースもありますが、基本的には楽天市場などで商品を販売しているネットショップと同様に「販売の責任者は誰なのか」ということについて、クラウドファンディングプロジェクトの段階から開示を義務付けています。

特にこのプロジェクトオーナーが海外のメーカーの場合には、日本語への翻訳を手伝っている業者が入っているケースが多い(時にはプラットフォーム自体が翻訳を行なっている場合もあります)のですが、何かトラブルが起こった際に最終的には支援者の方々が直接英語でやりとりをしなければいけないケースもあり得るので注意が必要です。

Kickstarterでは「プロジェクトを行うプロジェクトオーナーが実際に商品を作らなければいけない」とあり、事実上メーカーのような当事者以外はプロジェクトオーナーにはなれないことになりますが、日本のクラウドファンディングでは、特に海外商品を日本にもってくるプロジェクトの場合、プロジェクトオーナーが輸入販売会社であるケースが目立ちます。ただ、プロジェクトによっては、それがわかりにくかったりするのも事実です(メーカーが直接行なっているのか、輸入代理店がメーカーに代わって行なっているのか、メーカーが誰かをやとってプロジェクトを開催しているのか)。

ちなみにですが、きびだんご株式会社が自社で海外メーカーと協力して行なっている、海外商品を日本に持ってくるプログラム(「きびたん」プログラム)のプロジェクトについては、特商法上の販売責任者は全てきびだんご株式会社と明記されています。日本のプロジェクトを支援される際には、この「特別商取引上の表記」にある、販売責任者が誰なのか、それはきちんと表記されているのかどうかについてもご確認いただくことをお勧めします。

最後に

NuAnsなどの素敵なプロダクトをいくつもプロデュースしている、トリニティの星川社長が先日書かれたブログに、私も強く共感を覚えます。

クラウドファンディングはただの先行割引予約販売と化している

『結局のところ、クラウドファンディングとは名ばかりで、単に値引き先行予約販売だったり、目標金額は関係なく単にオンライン販売をするだけだったりということが多いのです。また、極端に目標金額を低く設定し、達成したということを言いたい、または1000%以上の達成率だったとかいうことを喧伝するための宣伝行為のみだったり、するように感じます。』

誠実であることは時に痛みも伴います。クラウドファンディングを開催しようとしている事業者からすると自分たちとしては「これは絶対にいける」と思っていても、うまくプロジェクトが達成しないことも多々起こります。目標金額が高すぎたり、設定した特典価格がロットを少なく見積もったために原価が高くなってしまい、割高になってしまったり。そもそも人々に必要とされていないものだった可能性すらあるかもしれません。

ただ、それこそがクラウドファンディングの大事な意義であるとも言えると思います。売れると思っていたのに、市場はそれを必要としていない。それなのに仮にリスクを取って在庫を抱えていたら、たくさん作ってしまった(もしくは仕入れてしまった)商品が全く売れずに悔しい思いをしていたかもしれません。

プロジェクトの未達成は、事業の不成功とは違います。むしろ事業者が持っている仮説を、事業の根幹をゆるがすような大きなリスクを取らずに検証できる素晴らしい仕組みであると考えています。

プロジェクトを支援する、支援者からみた場合にも同様のことが言えます。「この商品が欲しい!」と気軽にプロジェクトを支援してしまうと、その後の開発や生産が難航してしまい、商品がいつまでたっても届かずにもどかしい思いをするケースもあります。

それがわかっていても自分自身がクラウドファンディングでたくさんのプロジェクトを支援してきたのには、単に商品を予約購入するのではなく、そのプロジェクトの実現を支援することを通じてプロジェクトに参画することで得られる、商品が届くまでに起こる幾多の苦難を乗り越えてようやく自分の手元に届いた時のなんとも言えない高揚感と焦燥感の混ざった感覚が好きだからなのではないかと感じています。

クラウドファンディングに限らず、世の中で販売されている多くのプロダクトは、そうした様々な困難を乗り越えて世の中に登場しているのではないかと思うのですが、普通のお店で買う商品からはそのストーリーは伝わってきません。「そんなストーリーなんて知りたくない、自分は商品が欲しいだけ」という人もいるでしょう。クラウドファンディングプロジェクトの中には、何も問題がなく滞りなく全てが終わるものも多くありますが、事業者も予想していなかったような数々の困難に直面するケースも多々あります。これまではそうしたことは事後的に「実はこうだったんだ」と聞くことはありましたが、クラウドファンディングの場合には、支援者も好き嫌いに関わらず、そうした困難に巻き込まれます。

自分自身では待つことには比較的慣れている方だと思いますが、逆にこれまでのそうした経験もあり、支援者の方々には極力気持ちよく商品を受け取っていただきたいと常に考えています。

一方で、そうは言いながらも現実にはなかなか思うようにことがうまく運ばずに、プロジェクトによっては開発や認証手続きの遅延などによる商品出荷の遅れが発生してしまうこともあり、まだまだ改善の余地が大きいと考えています。

プラットフォームであり、プロジェクトオーナーでもある私たちとしては、誠実なクラウドファンデイングの仕組みを作り、運用することで、たとえ紆余曲折はあったとしても結果として関わった人達すべてを幸せにできるような仕組みが作れたら良いと考えています。

【参考記事】

Fabcross: 5年待っても僕がテスラの車を欲しかった理由——テスラが実証した「クラウドファンディング」的な事業成長の軌跡

週間アスキー: いつまでも待ってるから……発送待ち実録1年半!360度ストリーミングカメラのクラウドファンディング体験記

The Verge: Kickstarter asks people to stop claiming their projects are ‘the world’s best’