クリエイティブなことに取り組もうとするときにコストが掛かるのは古今東西みな同じ。特に、それが新しい試みだったり、世の中にまだ存在しないものであったりするときにはなおさらです。

そんな中、クリエイティブな人達の直面する課題「やりたいことを実現するためのお金をどうやって集めるか」という問題にユニークな解決方法を提供した人の半生を振り返るドキュメンタリー映画の試写会に行ってきました。

ハリウッドがひれ伏した銀行マン(ローゼマイン・アフマン監督)

http://www.hollywoodbk.com/

※予告編が流れ出すので音声にはご注意ください。

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1970年代、20世紀フォックスやパラマウントといったメジャースタジオではない、独立系の小規模映画制作会社の人たちが新たに映画を作るための資金集めをするのはとても大変なことでした。当時オランダの銀行員だったフランツ・アフマン氏は、映画プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティス氏と共に、「プレセールスを利用した映画製作資金の調達」という、非常に画期的な手法を編み出します。

従来、日本などそれぞれの海外市場で映画を上映する際には配給会社(日本でいうところの東宝東和、日本ヘラルド、松竹富士、GAGAなどといった会社)がカンヌ映画祭やアメリカン・フィルム・マーケットなどで、フィルムを買い付けていました。ただ、これだとお金は映画が完成するまでは手に入りません。また映画ができておらず、売り上げの見込みも不透明な中では、銀行からの融資も見込めません。

そこで彼らが編み出したのは、完成したフィルムそのものではなく、脚本や監督・出演俳優などの情報をベースに、制作会社が各国の配給会社に対して映画を作る前にフィルムの配給権を売ってしまい(プレセールス)、そしてその契約書を担保にして、お金を銀行から借りるというもの。こうすれば「映画さえできれば、日本での◯億円をはじめ、世界各国合計で何億円もの資金を集めることが可能です。

この手法を使って、アフマン氏は「スーパーマン」「ターミネーター」「氷の微笑」などの有名作品をはじめ、実に500本を超えるインディペンデント系映画をうみだす、縁の下の力持ちとして活躍します。

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このアフマン氏がすい臓がんで余命わずかとなったとき、その実の娘が自らが監督となり、彼の果たした功績や歩んだ道を、本人や、たくさんの映画界の著名人へのインタビューを行い、それを編集したのがこの作品。

クリエイティブな世界に生きる映画業界。中でも常に資金難と闘っている独立系の映画に携わっている沢山の人々がとても頼りにしていたとのことで、たくさんの有名人が、彼にいかに世話になったかを彼の娘に話しかけます。

また、アフマン氏若かりし頃の映像も出てきます。あの「プラトゥーン」がオスカー賞を受賞した時のプロデューサーのスピーチで「銀行員のアフマンさん、フィリピンのジャングルまで、この映画を作るのに必要だったお金を届けてくれて、本当にありがとう」と言っている場面なども出てきます。

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途中に彼の名刺が出てくるのですが、そこに「クリエイティブな人達のためのクリエイティブな資金調達(”Creative Finance for Creative People”)」という素敵なタグラインが入っていたのが非常に印象的でした。

かくいう私も実は昔々、銀行員でした。最後にニューヨークで働いていた時は、残念ながら映画製作などの華やかな世界ではないものの、同じく「その資金で出来上がったモノから生み出される製品ができるまでは融資した資金が返ってくるかわからない」鉱山や油田開発などの資源開発プロジェクトのファイナンスに関わっていたこともあり、非常に親近感を覚えました。

プレセールをベースにした、いわゆるプロジェクトファイナンスの一つの形態としての映画製作の資金調達はその後も進化し続けているとのことですが、一方でこうした銀行や証券会社を通じたファイナンス手法とは全く別のアプローチである、クラウドファンディングを通じた資金調達の仕組みも、特にアメリカでは完全に市民権を得るまでに成長しました。

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映画製作に必要な資金の一部を、個人のファンの人たちが少しずつお金を出すことで、それまでは実現できなかったことができてしまう。そんな夢のようなことがどんどん実現しているのです。個人のファンの人達が資金を出した見返りとして、サイン入り脚本のコピーや、エキストラ出演まで、様々な特典を手に入れることが可能というもの。

インディペンデント系映画の映画祭として有名なサンダンス映画祭では、2016年に出品された200本の映画のうち、16本が米国クラウドファンディングサイトであるKickstarter(キックスターター)で資金集めに成功したとのこと(累計ベースでは100本近く)。そしてアカデミー賞には同サイトを通じて映画製作が実現した10作品がノミネートされ、なんとオスカーを受賞する作品まであらわれたとのこと。

映画「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」はこれを書いている今週末の7月16日(土)から始まるとのこと。おすすめですので是非行ってみてはいかがでしょう?


 

© Don Camp

7 月 16 日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にてレイトショー! ほか全国順次ロードショー

配給 アークエンタテインメント/東北新社 STAR CHANNEL MOVIES


<リンク>

ハリウッドがひれ伏した銀行マン
http://www.hollywoodbk.com/

Platoon(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Platoon_(film)#Video_games

Kickstarter/Sundance
https://www.kickstarter.com/sff2016