SLICKSを開発したのはスイスの小さなデザイン会社、FLINK。

通常は家電製品なども含めたデザイン受託をしており、沢山のデザイン関連の賞を取っているそうなのですが、以前はバックパックのデザインなども欧州アウトドア用品大手の仕事として行っていたとのこと。

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FLINK社が過去に手がけたデザインの数々(リンク)

今回はそのSLICKSの生みの親であるFLINKのクルデイン氏にSLICKS誕生秘話を色々と聞いてみました。

きびだんご:SLICKSすごい人気ですね!

クルデイン:日本の人たちにも気に入ってもらえてとても嬉しいよ。もともとはキックスターターでプロジェクトを開催したんだけど、その時にも50人近くの人たちが日本から支援をしてくれたんだ。でも今回はその4倍を超える人達がきびだんごを通じてSLICKSを支援してくれていることになるね。

きびだんご:是非今回はこのSLICKSを開発するにあたっての話を聞かせてください!
クルデイン:もちろん!

ということで、はじまりはじまり〜


SLICKS誕生

話は今からさかのぼること7年前の2009年末のこと。クルデイン氏がロンドン在住の投資銀行に勤めるバンカーからとある相談を受けたことからこのプロジェクトが始まりました。

ロンドンでは交通渋滞が日常茶飯事になる中、2003年に渋滞緩和と公共交通機関の利用促進を目的として「渋滞税」が導入されます。

「コンジェスチョン・チャージ」 Wikipediaより(リンク)

それだけでなく、実際にはたとえ高い渋滞税を払って車で市内に入ったとしても、今度は駐車スペースを見つけるのがとても大変。そんな中、自動車通勤ではなく自転車通勤に切り替えることを考える人が増加したそうです。

ところが実際に自転車通勤をしようとすると、会社にロッカーが用意されているわけではなく、スーツで自転車に乗らなくてはならない。バックパック姿でスーツで自転車に乗ると、会社に着く頃にはスーツはしわくちゃ、汗だらけ。

そんな中、このバンカーは「自転車通勤時にはカジュアルで、オフィスについてから簡単に着替えることができる折りたたみ式のスーツカバーが中に入るバックパックを開発してほしい」とFLINKに相談。クルデイン氏達は彼らのために、スーツやシャツ、靴が入るバックパックをデザインし、合計で500個のファーストロットをロンドンを中心にイギリスで販売しました。

ところがその後、このバンカーは自分の本業が忙しくなってしまい、このバックパックの改良をし続けることができなくなってしまいます。「だったら自分達が代わりにやるよ」とクルデイン氏達が後を継ぎ、仕事の合間を見つけてはデザインの改良を地道に続け、今回のSLICKSが誕生したのです。

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そのあとのストーリーはプロジェクトページでも紹介した通り。米国Kickstarterでクラウドファンディング、その後Indiegogoでは予約販売という形で、累計3,000個以上が売れました。



きびだんご:
面白い話ですね!出張の時に使えるバックパックとして開発されたのかと思っていました!

クルデイン:一番最初のバックパック、僕たちは「オリジナルSLICKS」って言ってるんだけど、この開発を通じて、沢山のことを学んだんだ。それをベースに、まずは耐久性の改善を中心にバックパックそのものを改良した。その後、2015年に今あるような形のトラベルシステムの開発を行ったんだ。

僕も当然このSLICKSを毎日のように使ってるんだけど、実は僕自身はほとんどスーツを着ないんだ。だから、そんな人でも使いやすいように、スーツを入れたい時にはスーツカバーを使いながら、使わないときには自由に外すことができるようにしたんだ。それがこのトラベルシステム。

そうやってまずはプロトタイプを幾つか作って、それを色んな人達に使ってもらったんだ。

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評判はまずまずだったから、最初は自分達でサイトを立ち上げてそこで販売しようと思った。でも実はそれまでにクラウドファンディングを通じて3つほどプロダクトを商品化したことがあって、クラウドファンディングに挑戦するのもいいかな、って。自社で運営しているもう一つブランド、「ROTAUF」というのがその一つで、まだスイス国内でしか販売していない、環境にやさしいスイス製のスキーやスノボジャケットとかのブランドなんだけど、これもスイスのクラウドファンディングサイトを通じて実現したんだ。

もう一つはデザインと開発のみをFLINKが手がけたんだけど、STROMという携帯型のバッテリーチャージャー。でも当時そのクラウドファンディングを手がけていたのが、今はパートナーとして一緒に仕事をしているサシなんだ。

クルデイン(左)とサシ(右)

クルデイン(左)とサシ(右)

SLICKS開発秘話

きびだんご:SLICKS開発時に苦労したことはどんなところ?

クルデイン:実は、バックパックの開発自体は何年にもわたって、幾つも手がけているので、そこはあまり問題なかったかな。FLINK自体はバックパック以外のデザインも沢山手がけているんだけど、バックパックは我々が最初に手がけたプロダクトでもあり、間違いなく一番得意な分野だと思う。

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今回のSLICKSで一番時間をかけたのは、何と言ってもトラベルシステム、すなわちスーツカバーやトリップカバー(衣類ケース)などバックパックの中に収納するパーツ。とにかく色んなアイデアがあってね。

SLICKSで実現したかったコンセプトは、使い方をユーザーに完全に任せきりにしてしまうのではなく、きちんとヒントを与えながらガイドすることによって、ユーザーの人達に自分が一番使いやすい使い方を編み出してもらうというもの。それでいながら、細かいところについてはとことんまで気を遣って、基本的な使い心地は最適化してある。

例えば、トリップカバーを見てもらえればわかると思うんだけど、バッグ内のジッパーは全てダブルジッパーにしてる。これはどこからでも簡単に開けられるからなんだけど、実は長めのプルタブはそのうちの1個にしか付いていないんだ。なぜだかわかる?それは両方につけてしまうと間違って二つのタブをつかんでしまったらジッパーが開かないから。これを僕たちは「プライオリティ・ジッパー」って呼んでるんだ。

でも、例えば左利きの人はプルタブが付いている方向が気に入らないかもしれない。そのために、プルタブ自体がベルクロで外せるようになっているんだ。

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同じように、トリップカバーの中身も、汚れ物を入れるバッグはここに入ったらいいんじゃないか、というようなサジェストはしてるんだけど、絶対じゃない。Tシャツはここに入れたらいいんじゃないか、とか一応ゆるくはレコメンドしているんだけど、最終的にはユーザーの人達が自分で決めるのが一番だと思うんだ。

これまでのスタイルは、例えば衣類はキューブ型のケースを沢山用意して、それの中に各自入れてもらうというものが主流だったんじゃないかと思うんだ。とても自由度は高いけど、それはちょっと任せっきりなのかなと思う。僕たちのコンセプトはそれよりももう少し、整理の仕方についてある程度ガイドしてあげたいと思ってるんだ。

きびだんご:なるほど!そうすればユーザーの人達が混乱をしてしまうことがなくなるんだね。

クルデイン:でも、バッグの外側についているジッパーは、全てシングルジッパーなんだ。これは、暗がりや、飛行機の座席の下などの手の届かない場所でもどこにジッパーがあるかを確実にわかるようにするためなんだ。

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きびだんご:なーるほど!

クルデイン:そんな工夫が、このバッグには色々と仕掛けてあるんだ。ロンドンのバンカーに頼まれて作った時もいいものができたな、と思ったんだけど、今回のは本当に自信を持ってお勧めできると思うよ。

あともう一つ大事なのは、ビジネスマンの人達だって週末はスーツは着ない。同じ人でも、いつも同じ格好、同じことをやっているわけではないと思うんだ。平日はスーツを入れるために使いながら、休日はスーツバッグは外してしまって、サイクリングやスポーツの道具を入れたりしたりと、色んな用途に合わせて、バックパックの中身も変えられるというところ。これは他のどのバックパックとも違うんじゃないかなと思うんだ。

きびだんご:確かに、出張した時には全く同じことをやったよ!ホテルに着いたら、スーツカバーはそのままクローゼットに掛け、トリップカバーも外してミーティングに出かけたんだ。

クルデイン:これまでのものは、ガーメントバッグであればスーツだけしか入れられないし、バックパックには書類やパソコンは入れられても、衣類、ましてやスーツなんて絶対に入れられなかった。でも人によってはスーツやジャケットが入らない旅行だってある。そういう時にはスーツカバーは家に置いていけばいい。そうすれば3〜4日の旅行とかでも十分いけると思う。実際に全部のオプションパーツを入れてしまうとバックパック自体も結構重いしね。僕自身は実は結構山に登るんだけど、このSLICKSで3,800メートルくらいの山に登った時にはもちろんスーツカバーやトリップカバーは外して登ったよ。

なぜかSLICKSとは違うバックパックで登山するクルデイン達の写真(登山好き、という事はわかりました)

なぜかSLICKSとは違うバックパックで登山するクルデイン達の写真(登山好き、という事はわかりました。)


このトラベルシステムそのものはとっても複雑に見えるかもしれないけれど、SLICKSが実現しようとしているのは、その見た目もさることながら、みんなの生活を少しでもよりシンプルにしたいということなんだ。

きびだんご:いいですねー。

クルデイン:他にもちょっと意外だと思った利用方法としては、小さいお子さんを連れて動く時に便利という意見。0から5歳の子供を連れて旅行に出たりする時には案外いろんなものを持っていかなければいけなかったりするんだけど、そういう時にも活躍できるよね。

あとこれは僕たちにも意外だったんだけど、実は男性だけじゃなくて女性で使っている人も案外多いんだ。もともとは男性を念頭に置いて開発したものではあるんだけど、実際にはスーツを着て仕事をする人や、教育関係の仕事、例えば大学教授とか、案外女性の方々にも使ってもらえていて、僕たちが逆に驚いたりして。

過去に女性用のバックパックを作ったことがあるんだけど、その時には女性の体の形に合わせてショルダーベルトのデザインをしたりしたんだ。残念ながら今回のSLICKSについてはそういうことはしていない。なので、今後の可能性として女性用のもう少し小さくて、体の形に合わせた担ぎやすいものをデザインする、なんていうこともできるかもしれないね。

クラウドファンディングについて

きびだんご:僕たちも沢山のプロジェクトを手伝いながら思うのは、クラウドファンディングの一番の価値は、その商品を気に入ってくれる沢山の人達と一緒になってプロジェクトを実現し、コミュニティを作れるところにあると思うんだけど、沢山のプロジェクトを実際に自分達で手がけてみて、どう思った?

クルデイン:本当にその通りだと思うよ。お金を集めるというのはあくまで結果であって、実際に一番素晴らしいのは、コミュニティをみんなと一緒に作りながら、マーケティングができてしまうというところだと思う。

僕たちは2005年からデザイン事務所としてやってるんだけど、正直クラウドファンディングに出会うまでは、直接ユーザーの人達と出会うことってどうやればいいのか、全くわからなかったんだ。もちろんウェブサイトは世界中の人達に公開はされるけど、実際に来てくれるわけではない。そんな中、クラウドファンディングは本当に自分達にあっていると思ったんだ。自分達はデザインを形にすることは得意で、良いプロダクトを作れる自信もある。

でもそれをどうやってそれが欲しい人達に届けられるのか?そこを一気にクラウドファンディングが解決してくれたんだ。お金を集めるというのはもちろん大事だし、自分達にとっては必要なことなんだけど、それ以上に、みんなが見てくれて、それ自体がプロモーションにつながっていくというところこそが、一番の価値なんじゃないかな。

今後について

きびだんご:こうしてSLICKS自体は世界中で認められる商品になったと思うんだけど、今後はどういう方向に持って行こうとしているの?例えば小さめのバージョンを出すとか、考えてたりする?

クルデイン:
まさにそこを今考えているところなんだ。こうして第一弾の商品を無事成功させることができてとても嬉しいんだけど、ここから先には幾つもの選択肢があると思う。バックパックの種類をもっと増やすべきか?今の商品をさらに改良するべきか?バックパックの中に入れることができるオプションパーツをもっと増やすべきか?今はスーツカバーやトラベルケースはあるけど、じゃあカメラ用のカバーを作るべきか?とかね。

でも何よりも嬉しい誤算だったのは、これだけ日本や他のアジアの人達がこのSLICKSを気に入ってくれたことかな。僕は日本のことはあまり良く分からないけど、例えばフライターグのバックパックが人気あるらしい、ということとかは聞くんだ。

なので、今回のプロジェクトを通じて、日本のみんながこのバックパックをどう進化させて欲しいか、というのもぜひ知りたいと思ってる。

きびだんご:ぜひ日本の支援者の人達の声も届けたいと思います。今日はとても楽しい話をありがとうございました!

SLICKSバックパックの詳細はこちらから⇒http://kibi.co/slicks_story
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