日本ではほとんど食べられないセルビア料理を味わえるイベント『セルビアンナイト』  
 
知名度の低いセルビアという国とその料理に興味を持ってもらうのは容易ではない。  
 
それにも関わらず、2年間で9回もの成功を重ねていった。  
 
セルビアンナイトのプロジェクトはなぜ成功するのか。  
 
主催者である橋本さんから話を聞き出し、クラウドファンディング探偵マイキがその謎を解き明かす。

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橋本典子さん
旅する女将。
ワインエキスパート。
食を通じてセルビアを知るというコンセプトの食事会『セルビアンナイト』を主催。

 

自分にできることでクラウドファンディングをしていい

マイキ:
それでは、インタビューをさせていただきたいと思います。

橋本さん:
よろしくお願いします。

マイキ:
橋本さんは元々クラウドファンディングを知っていたんですか?

橋本さん:
震災をきっかけに知りました。クラウドファンディングで1千万円~1億円ほどのお金を何度か集めた東北の事業者さんに対して、何件か支援していたんです。

ただ、クラウドファンディングを開催する側としては、自分には縁がないものと思っていました。

マイキ:
たしかに、クラウドファンディングは人助けとか新たな商品作りとか、すごい人が何か大きなことを実現するためのものと思われがちですもんね。

橋本さん:
なので、たまたま知り合いになったきびだんごのスタッフさんに「何か挑戦されては?」って言われても、私に何ができるんだろうって。

マイキ:
その時から「旅する女将」として活動は行っていたんですか。

「旅する女将」の肩書は、着物好きであること、店舗を持たず出張でイベントやワークショップなどで活動していることにちなんだもの。

「旅する女将」の肩書は、着物好きであること、店舗を持たず出張でイベントやワークショップなどで活動していることにちなんだもの。

橋本さん:
はい、既に「旅する女将」として活動を開始していました。

マイキ:
そうだったんですね。

橋本さん:
ちょうど翌週にセルビアに行く予定があったので、セルビアで過ごした旅の報告会という形で、料理を出す会なら自分にもできると答えました。

セルビア共和国は南東ヨーロッパのバルカン半島に位置する。

セルビア共和国は南東ヨーロッパのバルカン半島に位置する。

マイキ:
なるほどなるほど。

橋本さん:
その参加券でいいって言ってくれたので、じゃあそれでクラウドファンディングやろうと。

マイキ:
そこから橋本さんは、今まで計9回もクラウドファンディングを開催していきましたよね。

橋本さん:
最初は仲間内だけで支援が集まりました、ご祝儀みたいなもんですよね。

でも、回数を重ねていくと、段々義理みたいな方が減ってきて正念場になります

マイキ:
たしかに、クラウドファンディングを1回しかやらないのと2回以上やるのとでは全然違います。

橋本さん:
実は、日本でセルビアについて手に入れられる情報ってとても限られています。

2回目、3回目ぐらいの時にはこれからセルビアへの旅行を考えているツアーの方が来るようになりました。

マイキ:
あー、そっか。ただ料理を楽しむだけじゃなくて、セルビアに旅行するために事前の情報を求めて。

橋本さん:
インターネットってありとあらゆる情報を集められるじゃないですか。

クラウドファンディングを重ねるごとに、 最近では「セルビア料理」で画像検索すると、上位に私の料理が来るようになったみたいで。

マイキ:
本当にセルビア料理店って日本にないのかと思い、検索したらやっぱり出てきませんでした。

たぶんそういう人も橋本さんのクラウドファンディングのページに辿り着くんでしょうね。

橋本さん:
今では義理で支援してくれる方ではなく、セルビアのことを知りたい方とか、過去に旧ユーゴスラヴィアやセルビアに住んでいて、また現地の料理を食べたいと思っていた方たちが集まってくるようになりました。

マイキ:
クラウドファンディングをやることで本来価値を届けたい人に届けられたということですね。

橋本さん:
セルビア現地にいる人や、私が料理を届けたかった人にまで広く情報が届くようになりました。なので、本当にいい形で広げられたなと思います。

知られざる美食大国セルビアの料理。

知られざる美食大国セルビアの料理。

 

継続させるコツは、あえて声をかけないこと

マイキ:
今ではクラウドファンディングを存分に使いこなしていると思いますが、やはり最初は大変でしたか?

橋本さん:
最初は何をどうすればいいか訳がわからなかったし、ちょっと怖かったっていうのはあります。

2回目、3回目はご祝儀の支援がなくなるので辛くなりますが、それを乗り越えるとリピーターのお客さんが出てきました。

マイキ:
そうなんですね。

橋本さん:
それとクラウドファンディングの実績のおかげで仕事は増えました。他の仕事をせずに一つに絞って、日本唯一のセルビア料理専門の料理人になったり。

マイキ:
日本唯一ってかっこいい。クラウドファンディング2回目、3回目と苦労する中でどういう工夫をしたんですか。多くの人に知ってもらうために声をかけるとか?

橋本さん:
いや、あえて声はかけない!

マイキ:
かけない?!あえて声をかけないってどういうことですか。

橋本さん:
声をかけすぎると、友達とか皆に申し訳ないじゃないですか。

だから直接仲のいい友達や、もともとの知り合いに「いま何してるんだっけ?」と言われたら、フライヤーを渡していました。

マイキ:
押し付けがましくじゃなくて、質問されたらそれに合わせる形で。

たしかに興味を持ってくれた人に対して伝えた方が満足度も高まりますよね。

単発のクラウドファンディングで終わるなら身近な人に声をかけまくる必要がありますが、そうでなかったらやり方は違いますか。

橋本さん:
マルチ商法のお誘いみたいになっちゃうのは嫌で。

マイキ:
そうですね。

橋本さん:
友達は大事にして、聞いてくれたら答える。初めて会った人にはQRコードが書かれた名刺サイズの紙を用意しています。

名刺交換の時に料理の仕事をしているって言って、「セルビア料理って?」って食いついてくれる人に最後渡しますね。

マイキ:
その中で日程も合うし、家族で行きたいっていう人が出てくる感じですかね。

橋本さん:
そうですね、その時のイベントに来れなくてもその次のイベントで来てくださる場合もあります。

とにかく、気負わずやろうとしています。

マイキ:
気負うと必死になってすぐ疲弊してしまいますもんね、それも継続できている理由ですかね。

 

その時の自分を見つめ直すきっかけとなる

橋本さん:
私は、 いかにセルビアの情報について正確さを期すかを、毎回毎回自分に問いかけています。

セルビア関係の書籍もほとんど出版されていないので、日本セルビア協会に入会して、大使館での勉強会に参加したり、セルビア人に聞いたりと勉強していかなければ同じ内容しかページに書けなくなるんです。

マイキ:
クラウドファンディングをやることが自分を見つめ直すきっかけになっているんですね。

同じことをやっててもしょうがないから、面倒とは思わずどうすれば新しいことを届けられるかを考える。

橋本さん:
そうです、リピーターさんに恥ずかしくないように。来てくださるお客さまにいかに良いものをお届けできるか。

マイキ:
気負いせず、でも適度な緊張感が大事。

橋本さん:
ただイベントやるだけだとグズグズになっていたかもしれません。そういう意味でクラウドファンディングはいい機会です。

マイキ:
最後に、プロジェクトを考えている方に一言お願いします。

橋本さん:
まず始めてみるのがいいかと思います。やるって手をあげれば、助けれてくれる人は必ず出てきます

手をあげずに悩んでいるよりもまずはやるって宣言してみること。

マイキ:
まず宣言して周りに知ってもらわないとダメですもんね。

橋本さん:
意外なところで意外な人が見てくれていて、手を差し伸べてくれます。

マイキ:
それは本気な気持ちがあってそれが伝わったから。

橋本さん:
そうそうそう。自分でこの人は助けてくれるだろうって勝手に思い込んでその人にすがるよりも、腹を決めて覚悟を示せば、どこかで誰かが見ていて手を差し伸べてくれます

 

謎を解き明かす

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1度きりのクラウドファンディングであれば、迷い・照れ・後ろめたさを拭いさってガンガン声をかける必要がある。

しかし、複数回の開催となると話が違ってくる。

相手が興味を持ってくれたタイミングで伝えなければ、人の心が離れる恐れがあり、今後つながるはずだったチャンスも逃すことにもなる。

相手の気持ちやその関係性、つまり距離感を理解することが大事なのだ。