こんな経験、ありませんか?

「自分がクラウドファンディングで支援していた商品が、自分のところに商品が届く前に別のところで販売されているのを見つけた」

世界で初めて!という「うたい文句」に惹かれて商品を予約したり、クラウドファンディングを支援していたにも関わらず、世の中には様々な理由で、その人たちが商品を受け取る前に他者がその商品、もしくは類似商品の販売を始めてしまうことがあります。

こうしたことが起こる背景には、いくつかのケースが考えられます。

  • 商品が並行輸入業者により輸入販売された
  • 商品が第三者により模倣された(メーカーが製造販売した後、もしくはその前)
  • 商品が製造工場により横流しされた
  • メーカーが意図的に商品を別の小売サイトで販売している
  • 少し長くなりますが、それぞれのケースについて考えてみます。

    1) 並行輸入業者による輸入販売

    これが一番多くあるのではないかと思います。特に海外で人気商品なのにもかかわらず、様々な理由で日本で正式に販売するのが難しいケースによく起こります。

    残念ながら多くの場合は、メーカーですら誰が商品を並行輸入販売しているのかがわからないケースがほとんどです。

    さらに悪質な並行輸入販売業者の一部には、そもそもメーカーとは何の契約もせずに、商品が手元にないにも関わらず商品を販売し、売れたらそれを発注しているようなケースもあります。

    商品が届かない、もしくは届いても色々と問題があったり、使った後に故障した場合、メーカーのサポートが得られないこともあり得るので十分な注意が必要です。

    クラウドファンディングで支援したのに、並行輸入業者で買えるようになってしまっている、というケースについての考え方はまちまちです。

    正式な輸入代理店が行なっているほとんどのクラウドファンディングは、並行輸入で購入した商品では約束されない、いくつかの大事な要素を満たしています。

    a) 法律や規制に対する準拠

    例えばWi-FiやBluetoothなどを使ってスマホやタブレットなどと接続する商品の場合、日本での認証を取る必要があります。一般的に「技適マーク」と呼ばれているものです。海外で販売されているプロダクトの多くは、欧米での使用許可を取得しているものの、より小さな市場である日本での認証を取得していないケースが多くあります。こうした認証を得ていない商品を国内で使うことは電波法などによって違法とされていることから、もしこうした機器を使っていながらメーカーが認証を取得していない場合には「一年以下の懲役または100万円以下の罰金に処する」とされています。

    他にもACアダプターや、リチウムイオンバッテリー等を使っている場合には輸入事業者や販売事業者が電気用品安全法上のPSEマークを表示する必要があります。第三者機関が安全性を確認した製品に与えられるものですが、並行輸入業者や個人輸入代行会社を通じて購入した場合にはこのマークがついていないケースも見受けられます。

    b) アフターサービス、返品・交換など

    クラウドファンディングの支援を行う際には、商品が届いた後に不具合や故障などがあった際に、きちんと対応してもらえるのかどうかを今一度確認することが大事です。

    海外のクラウドファンディングサイトを通じて個人輸入をした際には、そのリスクを各個人が負うのは自明ですが、国内のクラウドファンディングでも、実際には海外メーカーが直接日本の支援者に対して商品を提供するケースも見受けられます。商品に対する保証があった場合であっても、プロジェクト実施時には日本語で対応をしている場合でも、しばらくすると日本人の担当者がいなくなってしまう、もしくは翻訳などサポートに入っていた日本の業者がいた場合にもカスタマーサポートは範囲外である場合には、直接メーカーと英語など他言語にてやりとりをする必要があるケースがあります。

    「直接問い合わせの際には、翻訳ツールなど英語でお願いします」「サポートは商品到着後1ヶ月以内に限ります」などとある場合には、注意が必要です。

    2) 第三者による模倣(コピー)

    一番衝撃的だったのは、フィジェットキューブ。Kickstarterで多くの支援を集めた「ひまつぶし」商品です。


    日本で一世を風靡した「無限プチプチ」にも通じるところがあるのではないでしょうか。

    このフィジェットキューブですが、ハンドスピナーのブームにもうまく乗り、驚くことに15万5千人もの支援者から日本円で7億円を超える資金を集めることに成功しました。

    ところがプロジェクト終了後ほどなくして、まだ支援者に特典が届く前に中国・深センで、このフィジェットキューブの模倣品がありとあらゆる店で売られるようになります。

    実は、こうした模倣商品は後をたちません。悲しいことではありますが、クラウドファンディングの本質が「先にアイデアを公開して民意を得る」というところにある以上、次なる面白いアイデアを求めてコピー業者が日々ウォッチしているのも事実です。これを防ぐことはできないのでしょうか。もちろん世の中には特許や意匠登録、商標登録といった知的財産権を守る仕組みがありますが、一方で例えば特許を得るためには「新規性」や「進歩性」などの高いハードルが必要となります。新しいデザインであれば意匠登録もできますが、こちらも完全ではありません。

    3) 製造工場による商品の横流し

    さらに悪いケースは、商品を製造している工場がしれっと商品を別ブランドで横流ししてしまうケース。

    現在のメーカーの多くは商品設計やプロダクトデザイン、マーケティングを行う企画販売会社であり、実際の製造については中国や台湾などで行われていることがほとんどです。Appleが自社の商品に「Designed by Apple in California Assembled in China(商品デザインはアップルのカリフォルニア本社で、製造は(誰かが)中国で行なっている)」と書いているのは有名な話ですね。

    ただ、悪質な一部の工場が、メーカーにも内緒で商品に別のブランドをつけて他社に販売してしまうケースがあります。つい先日も、あるクラウドファンディングサイトで人気を博していたプロダクトとほぼ同一の別ブランドの商品が、違うクラウドファンディングサイトで紹介されているのを見て驚きました。

    もっとも、中にはメーカーが自分でアイデアを考えた、と標榜していても実際にはどこかの展示会などでたまたま製造会社が出展していたものに自分のブランドをつけて「自分のもの」ということにしてしまっているケースもあり、どちらが本当なのかが分かりにくいケースもあるので本当に悩ましいところです。

    4) メーカーの意図的な別サイトでの販売

    こちらは、どちらかというと資金難で頓挫寸前のプロジェクトによくある「自転車操業」的な行動です。

    Kickstarterなどのクラウドファンディングで多くの支援者から多額の資金調達を行なったものの、実際に製造元となる工場とやりとりをした結果、クラウドファンディングの特典がとんでもない原価割れになってしまうことが後から判明した、というようなケース。

    Kickstarterなどの海外クラウドファンディングサイトで開催されている多くのプロダクト関連のプロジェクトの多くは、ものづくりに始めて取り組む、というような野心的なもの。それがゆえにとんがった面白いプロダクトのアイデアもどんどん出てくるのですが、裏返すとものづくりについての経験値がさほどなく、実際に商品を製造しようとするなかでさまざまな課題に当たってしまうものも多く存在します。

    最悪の場合、先ほどのような原価割れで何千人に販売してしまったことが後から分かり、支援者達に商品を販売出荷してしまうと、資金難で倒産してしまうことが判明してしまうこともあります。

    実際に起こったケースとして有名なのが「Coolest Cooler」。

    ミキサーが付いている充電池つきクーラーボックス「Coolest Cooler」

    2014年に62,000人の支援者から実に日本円で14億4千万円以上を集め、その年にKickstarterでもっとも多くの資金を集めたプロジェクトの名声を得たのもつかの間、先ほどのように「作れば作るほど赤字になる」ことが判明。結果、プロジェクトオーナーはこの商品をきちんと黒字になる値段でAmazonで先に販売し、その利益の中から少しずつKickstarterの支援者に対して商品を赤字で出荷することにします。

    米国AmazonでのCoolest Coolerページ

    支援した支援者よりも先にAmazonで買った人に商品が届くわけですから、支援者の怒りは想像に難くありません。その後、怒った支援者が集まり集団訴訟を起こします。結果としてオレゴン州の司法局とメーカーが最終的には合意。集団訴訟の発起人である392人、オレゴン州の住民である481人には12ヶ月以内に出荷することとあるものの、それ以外でまだプロダクトを受け取れていなかった21,021人に対しては売上の10%相当額を積み立て、それを原資に商品を送り続け、それでも2020年6月までに届けられなかった支援者に対しては、その全員に$20を支払うことになりました。(実際のプロジェクト開催時の特典価格は$185)いまだに商品を受け取られていない支援者の人たちは、2014年から実に5年が経過した今も、現時点で$449相当の商品(Amazonでの販売価格)が届くのか、その代わりに$20の小切手が届くのか、ドキドキしているのではないでしょうか。

    オレゴン司法局とプロジェクトオーナーであるRyan Grepperによる自主規制による法令遵守合意書(合意した内容を実施しない場合には消費者保護法に抵触し有罪となる)

    きびだんごはこう考えます。

    こうした問題について、私たちはどう考えれば良いのか。

    実はここにクラウドファンディングの真髄があるのではないかと思っています。

    きびだんごが自社で行なっている「きびたん(きびだんご海外面白商品探索部)」ですが、自分たちが「これは面白い!日本でまだ売られていないのはもったいない!」というプロダクトを探し、それをクラウドファンディングで、支援者の方々の力を借りて日本に持ってくるという取り組みです。

    その際には、自分たちが「初めて見つけた」と思っていた商品が、実は他でも売られていた、というようなことがないように様々な方法で確認しています(当たり前ですね)。

  • メーカーに確認し、直接ビデオ会議を通じて面談する
  • 似たような商品がすでに販売されていないかどうかチェックする
  • その商品を日本で販売した際に、商標などの問題がないかどうかチェックする
  • その商品を日本で販売できるような認証・許認可が取れているか、または取れるかどうかをチェックする
  • ところが、困ったことにプロジェクトが開始して、ありがたいことに様々なメディアで取り上げられ、支援者の方々も盛り上がってくると、先ほど書いたようなコピー商品を先回りして販売しようという人たちを生む温床を作る結果にもつながってきます。

    これを防ぐことはできるのか。

    当然、メーカーと一緒に行なっている取り組みなので、メーカーとしてできること、日本で我々のみが販売を行おうとしているからこそできることはあります。

    一方で、Amazonをはじめとするショッピングサイトの中には、世界中の誰もが比較的簡単に商品を売れる仕組みになっているところもあり、絶対にコピー商品が販売されるのを防ぐことができるのか、というとなかなか難しいのも現状です。メーカー、もしくは独占販売代理店としてその商品を販売していればマーケットプレイスに対して取り下げを求めることもできるのですが、何しろまだ日本では売られていない商品なので、どちらかといえば、模倣品の方が世界で初めて、ということになりかねない。

    これに対する当社のスタンスは以下の通りです。

    きびだんごの「きびたん」プロジェクトは個人輸入や並行輸入、個人輸入代行ではなく、日本で初めて正規輸入の形でプロダクトを紹介し、支援者からの支援を通じて全員でさまざまな壁(最小ロットの壁、認証や許可の壁、輸入関税や送料の壁)を乗り越え、日本にそのプロダクトを正しい形で持ってくることを実現する取り組み。

    我々が日本に持ってこようとしている商品の真正性については、できるだけファクトを揃え、その商品を生み出したのはまぎれもなくそのメーカーであることを事前に確認する。

    また、各メーカーとは、品質保証を含めた一定の商品の保証をユーザーに対してきちんと提供できる体制を持っているかどうか、あらかじめ確認する。

    我々が「きびたん」プログラムを通じて支援を募ったもの、その後成功して我々が販売しているものについては自分達で責任を持って商品の不具合があった場合などの返品・交換、修理に対応する。

    一方で、他サイトなどで販売されている模倣品など真贋が証明できないものについては当然ながら対象外、保証外となりますので、何かあった際には直接その販売者に対して対応を求めていただく必要があります。

    認証などを取得しない形で他の並行輸入業者や個人輸入代行業者が日本で商品を販売することについてはできる限り対抗措置を講じるものの、自分達でできることには一定の限界があるのも事実です。むしろメーカーや支援者の皆さまと共に、こうした模倣品などと毅然とした姿勢で戦っていきたいと考えています。

    参考

    https://medium.com/@jobosapien/real-vs-fake-the-infamous-case-of-the-quickly-copied-fidget-cube-9b26a6161b36

    https://qz.com/771727/chinas-factories-in-shenzhen-can-copy-products-at-breakneck-speed-and-its-time-for-the-rest-of-the-world-to-get-over-it/

    https://www.youtube.com/watch?v=jhiL1Hy-y4g