11月20日、Kibidangoオフィスにて、「22世紀のものづくり論」と題したトークショーを開催しました。登壇者は、7月に「気泡わり専用アラビックヤマト」のプロジェクトを立ち上げて見事成功させた、おもちゃクリエイターの高橋晋平さんと、きびだんご代表取締役の松崎良太。会場では「気泡わり専用アラビックヤマト」をはじめ、Kibidangoの取扱商品、25種の展示・販売も行われ、約20名の参加者は、スタッフの熱いプレゼンを聞きながら、商品を手に取ったり試したり、口々に感想を述べ合ったり。そんな打ち解けた雰囲気の中で始まったトークショーで、2人がクラウドファンディングの醍醐味を語りました。

今回はそんな対談の様子を、前編・後編の2回に分けてお届けします!

▼少年時代に発見した遊びから生まれたシュールな商品が大きな話題に

松崎:ぼくは面白いモノが大好きなんです。それも、万人受けするものより、特定の人にめちゃめちゃ好かれるようなモノが。そして、まだそれを知らない人たちに、「こんなに面白いものがあるんだよ!」って教えてあげたいという思いがめちゃくちゃ強いんですよね。

高橋:わかりますよ。今日ここに展示してある商品も、狂ったものばかりじゃないですか(笑)。

松崎:Kibidangoのサービスを通して、そういうとんがったものをつくったり、紹介したりしているわけですけど、そんなぼくでも高橋さんの「気泡わり専用アラビックヤマト」には度胆を抜かれましたね。

高橋:からだが弱かったので、小学校の3年間、休み時間にひたすらアラビックヤマトの気泡を割って

あそんでいたというぼくの経験から生まれた、歴史に残るシュールな商品なんですけど、これはKibidangoさんでやるしかないと思ったんですよね。ほかに持って行っても引かれるだろうと思ったので(笑)。

――アラビックヤマトのメーカー、ヤマトさんを巻き込んでのプロジェクトだったわけですが、大きな話題になって、目標額の10万円は13時間でクリアしたんですよね。

高橋:たまたま去年、気泡を割ってあそんでいたという話をしていたら、「私もやってました!」という人が1カ月に3人も見つかったんです。それなら全国には相当な人数がいるに違いない、と。だけどネットで検索してみても、気泡をプカプカ動かすというのはあるけれど、割っているという話は出てこない。

これはとてつもない宝物を見つけたぞ、と思いました。ぼくがやらないといけないなって。すぐさまヤマトさんの問い合わせフォームに、私はこれこれこういうもので、昔友だちがいなくて3年間気泡わりをしていました、ということを書き込んだら、担当の方が「ぜひお会いしましょう」と言ってくださったんです。

【気泡割りわりアラビックヤマト】: https://kibidango.com/965

▼起業した今だからこそ、そしてクラウドファンディングだからこそ可能な挑戦だった

高橋:ニッチな層にアプローチするというのは、大企業時代にはやれなかったこと、やっちゃいけないことだったんです。

――高橋さんがバンダイ時代に開発された∞プチプチも、十分ニッチな商品だと思いますけど。

高橋:いいえ、プチプチつぶしは、日本の常識です(笑)。誰でも知ってることだから、超メジャー。

松崎:あれはマスを狙ってたんですか?

高橋:狙いにいってましたよ。全員が共感すると思ってましたから。

気泡わりはそれとは違う。だけどその代わり、共感する人の興奮度は高いだろうと思いました。「知ってる人だけ集合せよ!」みたいなことができるのは、身軽になった今だけの特権だと思って、瞬発的に動いたというのがあります。でもアンケートをとってみたら、予想より気泡を割っていた人の比率が高くて、3割ぐらいいたんです。これは誤算でしたね。

――大きすぎず、小さすぎず。その塩梅が大事なんですね。マーケットが大きければ共感度は薄まっていくし、小さければビジネスにするのは難しいかもしれないけれど、共感する人たちは熱狂する。どちらを狙うかによってモノづくりは変わってきますよね。

高橋:上場している会社は、必ず売り上げをとらなきゃならない。ぼくは起業したとき、売れなかったものも発信していこうと決めてたんです。だけどやっぱり、例えばゲーム商品をつくって流通に取り扱っていただいた時点で、「売れませんでした」と言うことはご法度なんです。いろいろなところに迷惑をかけてしまうから。失敗を口外できない、失敗事例をシェアできない。

だめだった、それはなぜか、ということを語る材料を積み上げられる場は、クラウドファンディングしかないんですよ。時代も競合も移り変わっていくから成功事例の二発目は通用しないけれど、失敗体験から学んだことは後々まで大きな武器になるんです。

 ぼくは企業の新規案件のお手伝いもしているんですが、そういうときに参考になるのはほぼほぼ失敗事例です。失敗して5,000万円ぐらいの借金をつくったことのあるぼくの友人は、そのネタを使って今、5本ぐらいの仕事につなげているらしいですが、経営者から見たら、それだけド派手な失敗をした人は絶対何か持っていると思いますよね。

▼やり直して成功につなげられるなら失敗は、失敗ではない

高橋:そう言いながらもぼくはすごいチキン野郎なので、失敗を最小限にすることを何よりも考えているんですね。今回のアラビックヤマトでも、絶対に非成立にはしたくなかった。公然と失敗できる場だと思っていたはずが、当事者になってみると、クラウドファンディングって“失敗すると恥ずかしい感”がすごいなと思って。

松崎:公衆の面前で失敗する、みたいな感じですよね。

高橋:そうそう。だからSNSとかで「やってます!」って一生懸命アピールする。「アピってください」みたいな周りの空気感もあるから、アピられた人も嫌だろうと思いながら、しつこくシェアしてしまって。だからね、クラウドファンディングの次の展開として、失敗をカッコよく見せる、というのはないのかなと思うんだけど。

松崎:例えばアメリカには七転び八起きを良しとするカルチャーがあって、華々しく失敗した人がその後で大成功した、みたいな例がたくさんあるんです。日本では、一度失敗すると失敗者という烙印を押されてしまって、立ち直るのが難しいと言われているんだけど、これからは「失敗を経験しておいてよかったね」みたいなことを言える土壌をつくっていったほうがいいと思いますよね。

Kibidangoでは海外から商品をセレクトしてきて自らクラウドファンディングをやっています。はじめは失敗ばかりだったのが、徐々に経験知が蓄積されてきて。その経験を通して、クラウドファンディングはやっぱり楽じゃないなということをあらためて思いました。

自分が「すごく面白い、これはイケる!」と思ったものは、ぜひ成功させたい。うまくいかないとすごく悔しいから、メーカーと交渉して、改善して、立ち上げ直したら今度はうまくいったというケースが何度もあって。そうすると、失敗って、実は失敗じゃないんです。やりながら学べることがたくさんあるんです。

高橋:それがクラウドファンディングの真髄ですよね。

 

>>後編に続く

 

(文:ライター 坂本潤子)