Quirky(クワーキー)という会社を知っていますか?面白い商品アイデアを持っている人が、誰でも自分のアイデアを投稿でき、うまくいけばそれが商品化されて、ロイヤリティまで入ってしまうというもの。数々の「Quirkyな(一風変わった、癖のある)」ものが次々と商品化されてきました。

Quirky

Quirky

面白い商品の数々

犬が自分で水が出せる水飲み栓

卵の黄身だけ取り出せるスポイト

開栓したワインボトルを立てかけてキープするストッパー

スマホとつながるブタ貯金箱

中には、ミリオンセラーとなった商品もあります。

くにゃくにゃと曲がる電源タップ

Quirkyの倒産

そのQuirkyですが、一昨日の未明に連邦破産法11条に基づく倒産手続処理の申請をしました。元々今年のはじめから資金繰難が顕在化、何度かの大規模なリストラが行われ、7月には同社創業者でCEOのベン・カウフマン氏が社外のカンファレンスで「もう会社に現金がなくなってからしばらくになります」という正直すぎる?問題発言をし、翌月には同氏が更迭され辞任。会社が売りに出ているという情報が飛び交う中、もはや何らかの終止符が打たれることは秒読み段階ではあったのですが、今回こういう形で問題が顕在化することで、Quirkyによって生み出された、「初代」現代版モノづくりの課題が改めて浮き彫りになりました。

Quirkyは、6年前の2009年に、当時22才だったベン・カウフマン氏が創業しました。元々17才で両親からお金を借りて学校へ持ってくるのが禁止されていたiPodを隠して聞けるようなカバーを企画開発し、19才で前身となるMophieを創業。展示会で商品改良のアイデアを広く募り、みんなの意見を吸い上げて直ちに展示会の会期中に商品改善につなげていくという試みを始めました。そのMophieは当時の株主とのトラブルから経営権を失いましたが、その時の経験をベースに新たに創業したのがQuirkyだったのです。

「自称」発明家のたくさんの人達が、自分のアイデアを投稿し、それを見たコミュニティが様々な意見を出して商品企画を改善していく。その中から投票の多いアイデアが15個選ばれ、毎週木曜日に行われる”EVAL”と呼ばれる公開評価会に掛けられて参加者からの投票を通じて、50%以上の賛同が集まれば、そのアイデアが商品化のプロセスへと進みます。最終的な商品開発の判断には発案者は噛めないものの、特許取得、デザイン、試作化、量産化、小売での販売まであとは全てQuirkyがやってくれ、アイデアを出した人や実現を手伝ったコミュニティ会員にはその売上の一定割合が入るというもの。

登録ユーザー数100万人。これまで400以上の商品が同社を通じて生まれてきました。

その同社の倒産。一体何がいけなかったのでしょうか。

①収支構造の破綻

絶頂期には多い時で毎週2,000ものアイデアの投稿があり、週に3つの商品を世に送り出していたというQuirky。その商品はターゲット、ウォルマートなどの小売店で多数販売されていたといいます。もっとも、そうした小売店に対しては定価の40〜50%程度でしか商品を仕入れてもらえず、更に同社の売上の実に10〜30%がロイヤリティの形でアイデアの発案者や商品化に協力したコミュニティに対して支払われた結果、同社は「全く儲からない」収支構造となりました。

自社で商品化された商品は、最終的に大手家電量販店を中心に販売されていましたが、取引条件が厳しい中わずかの粗利しか得ることができない一方で、最小ロットで数万個単位で商品を発注しなければならず収支を圧迫し続けました。

例えばこの商品。作るのに4,000万円以上掛かりましたが、売れたのはわずか57個。

Bluetoothで接続するタブレット・スマホ用スピーカー

結果として、今年初めにビジネスモデルを転換、自分たちで商品開発コストを負担するのではなく、大手メーカーがスポンサーとなり、商品化の検討を行う形になったものの、なかなかうまくいかなかったようです。

②ブランド力・品質への信頼性の不足

また、当初期待していたほどにブランド力を上げることができなかったのも敗因の一つと創業者は語っています。コード巻や電源タップとかのちょっと一風変わったガジェットを作っている分には問題なかったものの、消費者は金額の張る商品、例えばエアコンを買う際には「ちょっと変な」エアコンではなく、ちゃんとしたエアコンを欲しがったようだ、というのです。そんなこともあり、新たにIoTの商品に進出した際には「Wink」という別ブランドで事業展開を行いました。

しかし、こちらはこちらで商品の使い勝手が悪く散々なレビューを受けたり、初歩的な開発ミスの結果、商品発売の1年後に大規模なリコール騒ぎになったりと、なかなかうまくいきませんでした。(このWink事業は$15百万ドルでFlextronics社が買収に名乗りを上げているとのこと)

②商品づくりの過程でコミットする人が不在だった?

同社の最大の仮説は、面白い商品アイデアをクラウドソーシングの形を通じて集め、ユーザー投票の形でスクリーニングをすることにより、ユニークな商品アイデアを集め、売れる商品を事前に見分けることができるというものですが、ひょっとするとその仮説にそもそも問題があったのではないでしょうか。

その商品企画が面白いかどうかで人気投票が行われ、それを開発する事業者側にもそこまで商品に対する思い入れがないままに商品が次々と生み出されていく。結果としてリスクを取っているのはアイデアの発案者でも、その開発を行ったQuirkyでもなく、同社に投資をした投資家の人達となり、売れない商品が多数世に出されるという皮肉な結果を生み出してしまったのではないでしょうか。

壮大な「実験」とそこから得られる教訓

同社はこれまでにKleiner PerkinsやAndreessen Horowitzと言った錚々たるベンチャーキャピタルやGEと言った大企業から、合計で200億円以上の資金を集めていました。それをこれまでにほとんど費やしてしまったことになります。

同社の最大の競争力は、「誰でも自分のアイデアを提案、それを他の人達を含めてみんなで改良していくことができる」コミュニティと、そうして集まったアイデアをいち早く「自社でどんどん商品開発を進められる」という行動力でした。自らが提案したアイデア、あるいは自分が面白いと思ったアイデアがみんなの協力のもと商品化されていく。いずれもアイデア自体はとても素晴らしく、今回の倒産について惜しまれる声も多く聞かれます。

このQuirkyのモデルに対して、Kickstarterやきびだんごのようなクラウドファンディングは、アイデアを試作品の形まで持っていくなどして必要最低限のリスクをきちんと取っているプロジェクトオーナーと、必要な資金さえ集まればお金を出すことを先に約束している支援者がお互いに協力して新しい商品や価値を生み出そうとする仕組みと言えます。商品を企画開発する人達も、それを支援する人達もが一緒にコミットして、想いの込もった商品が生み出される。

その結果、本当に必要なものが世に生まれて行くことができる仕組みとなるのではないかと信じています。また今回の教訓を通じて、Quirkyの持っていた課題を克服する、新たな現代版モノづくりの仕組みが生まれることを願っています。

参考記事

 

Wall Street Journal

New York Magazine

Fortune

Inc.

The Verge