クラウドファンディングサイト「kibidango」が主催する夜の部活動「よるだんご部」、第2回目となる今回は「はたらき方共有会」と題し、「フィールドを制限しない働き方」を実現されている5名のゲストにお越しいただきました!

◆レポート前編の記事は こちら

後編は、職業体験ツアーを提供する「仕事旅行」の内田さん、福岡から世界に革新的なアプリを発信する「しくみデザイン」の中村さん、そして、宮崎のローカルメディア「宮崎てげてげ通信」の長友さんの『はたらき方』にフォーカスします!


 

「仕事は辛いものだ」という概念が180度変わった瞬間。
━ 株式会社仕事旅行社 内田靖之さん

よるだんご

内田さん:
大学卒業後は、建築会社に8年間勤めていました。当時の会社は「仕事っていうのは辛いから仕事なんだ!」というカルチャー。僕自身体育会系の人間だったので、そういった文化には馴染んではいたんです。でも、周りが3年経つと辞めていくような環境で、このままでいいのか?とも思っていました。

そんなとき、たまたま知人のベンチャー企業に遊びに行ったんです。そこで「会議があるから参加してみなよ」って言われて。その会議の内容が衝撃的で、「新しく会社にポップコーンマシーンを置くんだけど、その役職をCPOにしたい」というもの。

一同:(笑)

内田さん:
それまで8年間も「仕事は辛いもの」というカルチャーに染まっていた自分の目の前で、「ポップコーンオフィサーを誰にするか」という議題が繰り広げられている。その会社は「仕事は公私混同するから楽しい」というカルチャーだったんですよね。それまで建築業界としか関わりがなかった自分は、その体験で「自分は、とても惜しいことをしているんではないか」という感覚になったんです。

この体験を、仕組みとして提供できれば面白いんじゃないか。

仕事旅行憧れの仕事を気軽に体験できる「仕事旅行」は、自分磨きとしても人気。

内田さん:
この自分の体験を仕組みとして提供できないかなと考えて、代表の田中と始めたのが「仕事旅行」です。大人が自由に色んな仕事を体験できるサービスで、現在130職種以上のツアーを提供しています。開始当初は「体験」を重視していたんですが、参加した方からは、「プロの方の裏話を聞けたのがよかった」「その職業の方が、どんなキャリアを積んできているか知れてよかった」というように、仕事の裏側を知れて良かったという声も多いですね。

「職業体験」が自分の仕事を見つめ直すきっかけになる。

内田さん:
参加者の1〜2割は「お試し転職」として利用する方、3~4割は「今の仕事にモヤモヤしている。具体的に何をしたいか決まっていないのでやってみよう」という方、そして残り半分の方は「自分磨き」としてご利用いただいています。

また、参加者の7割は女性、平均年齢は31歳前後です。仕事にも多少余裕が出来て周りが見えるようになり、「就職活動では、会社をネームバリューで選んでしまったけど、今の仕事をこのまま続けていいのか?」と悩まれているケースが多いようです。また、「仕事旅行」では、それぞれの仕事の表も裏も見せるので、参加者の中には「憧れていた業界だったけど、いかに今の仕事が恵まれているかが分かりました」なんて声もあります。

企業が社員に「他業界の仕事」を体験させる時代に。

内田さん:
最初は個人向けのサービスでしたが、最近は法人から「社員研修で使いたい」というお問い合わせも増えており、月に2-3件は団体での利用があります。多いときは100名規模での参加も。目的は、内定者の社会人生活へのモチベーションアップや、既存社員の離職防止など。単なる個人の職業体験から、活用方法もどんどん広がっています。

仕事旅行プロジェクト最小催行人数の設定が必要なツアーは、kibidangoでクラウドファンディングも実施。

自分の「おもしろい」を追求したら、「世界一」になっていた。
━ 株式会社しくみデザイン 代表取締役 中村俊介さん

きびだんご青井:
中村さんは、大学院ご卒業後すぐ会社を立ち上げられたんですよね。

しくみデザイン

中村さん:
名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学(2003年に九州大学と統合)大学院に進学しました。卒業後、2004年に九州工業大学の講師になり、翌年の2005年に「しくみデザイン」を立ち上げ、4年半ほど両立。講師の任期5年を終えて会社一本にしました。

ビジネスにするつもりはなかった。周りの評価が後押しとなって起業する流れに。

中村さん:
大学院時代はメディアアートに取り組み、「カメラの前で体を動かして音を出す」という仕組みを作りました。この仕組みで特許も取得しています。この仕組みを使って開発したのが、カメラの前で演奏できる「神楽(現・KAGURA)」というアプリ。特にビジネスにしようとは考えていなくて、ただ面白いと思って、アート作品として作ったんです。

それが、在学中に福岡のビジネスプランコンテストに誘われて応募してみたところ、「福岡県ヤングベンチャー育成支援事業」に採択されて補助金をいただくことに。そこで、卒業後すぐ学生時代の仲間と一緒に会社をはじめました。

会社を立ち上げた当時は、まだ携帯もパソコンも性能が良くなく、WEBカメラさえ入手困難な時代。そんな時代に「カメラの前で動いて音を出す」と言っても、周りは「は?」という感じで理解してもらえませんでした。でも、僕は大学の講師で給料をもらっていたし、他のメンバーは全員学生だったので、2年ぐらいは会社として特に稼がなくてもいいような状態でした。

その後、北九州空港で新しく何かやりたいという話をいただき、「観ている人に反応する市のPR広告」をつくったんです。それをきっかけに、企業の広告やキャンペーンを本業としてやるようになりました。

しくみデザイン北九州市の動物園や小倉城の四季など、PRコンテンツがどんどん切り替わる仕組み。子供達にも大好評だった。

10年経って、僕らの技術に周りが追いついた。

すると、他の大きい会社が同じことを始めたんです。それで僕たちはお腹いっぱいになってしまって。この分野でパイオニア的なことはやったからもういいかなと。

そんなとき、「KAGURA」を今の技術にアップデートして、インテルの次世代UI開発コンテスト「インテル ® Perceptual Computing Challenge」に出してみたら、世界一になったんです。僕としては10年前からやっていることだったので、「今やってもウケるのか!」と新しい発見でした。

KAGURA

今ならカメラは携帯にもパソコンにもついているので、当時よりも多くの人に響くのではと、ソフトウェアの無料ダウンロードを始めたら反響もよくて。今は、プロのミュージシャンが演奏しても良いレベルにアップデートし、次の展開を考えている所です。

「作る側」から、「作る人を育てる側」に。

僕らはこれまで「作る側」だったんですが、創業から10年経って社員の数より子供の数が増え、「どうすればこの子たちがみんなクリエイティブになるかな」と考えるようになりました。そこで、「誰でも作る側になれるツール」を提供する方が、よりクリエイティブなんじゃないかと思うようになったんです。

springin

そこで、文字も数字も使わずにプログラミングができるアプリ「Springin’」を作りました。幼少期からフルオブジェクト指向でやるべきだというコンセプトです。

このアプリは、自分が描いた絵にどうすれば動くか/止まるかを指定出来て、ゲームもつくれるツール。まだお金は生み出していないんです。全体的にビジネスをあまり考えた事がありません(笑)このアプリで大事なのは概念やカリキュラムなので、将来的にはワークショップや授業、本でビジネスになればいいなと思っています。

スローな働き方が実現できるのは、「福岡」という土地のおかげ。

しくみデザインの社員は、10時〜18時ぐらいまでしか働きません。土日も誰も会社に来ない。みんな「子供を風呂にいれたい」という理由で帰るんです。そんなクリエイティブな会社はあまり無いと思います。なぜそれが実現できるかっていうと、東京よりも福岡の生活コストが安いというのはあると思います。でも、それも僕がたまたま九州大学だったから福岡で起業したってだけなんですけどね。

きびだんご青井:
好きなことをやっていたら今の形にたどり着いた、まさに理想の「はたらき方」ですね。

宮崎嫌いだった女子が、宮崎一の応援団長になったワケ。
━ 宮崎てげてげ通信 代表 長友まさ美さん

テゲツー

きびだんご青井:
先日「ジャーナリズムイノベーションアワード2016」で優秀賞を受賞した、今をときめく「宮崎てげてげ通信」の長友さん!本業でコーチングのプロとしてご活躍される中、ローカルメディアの運営を始められた経緯を教えてください。

長友さん:
私、ドロップアウト組なんです。ずっと宮崎が嫌いで早く出たいと思っていて、高校卒業後は日本語教師を目指すために県外の大学に行きました。でも、そこに入って初めて「自分が宮崎弁だ」ということに気づいて、あっさり挫折したんです(笑)

挫折した後は「学校よりも、世の中には学べる事がある!」と思い直し、いくつもバイトをやりました。溜めたお金で海外に行ったり、とにかく自分のやりたいことをやって。でも、「仮に24時間365日働いてもこんだけしか稼げないのか」「これは若いからできることなんだな」と思うように。とは言え、スキルもやりたいことも何もない。それならとりあえず会社に入ってみようと片っ端から履歴書を送ったんですが、落ち続けました。

たまたま拾ってもらったのが、福岡のイベント運営会社でした。恩義を感じて、言われた仕事は全部やっていましたね。採用に関しても、上司から「できる?」と言われて、「やったことないけどやります!」と。本を買い漁って勉強し、求められた以上のことをやろうと頑張っているうちに、気がついたら会社の採用・教育のマネージャーになっていました。

よるだんご

「自分の人生の舵は、自分で持ちたい。」と28歳で会社を飛び出した。

長友さん:
その頃、会社はすごく優秀な人たちがいるのに、言ったことしかやらないという状況に。「なんでやらないんだ!」と苛立っていました。でも、みんながそうなるということは、教育マネージャーである私に責任があるんじゃないか?と思い、リーダーシップやマネジメント、コミュニケーションについて学び漁りました。そこで出会ったのが「コーチング」です。

そして、コーチングを学びながら、自分自身も「この先どんな人生を生きたいんだろう」と考えるように。今の仕事に達成感も使命感もあるけど、私ってどんな人生を生きたかったんだっけ?と。

さらに、私は目の前の人が元気になったり笑顔になると「頑張ろう!」って無限にエネルギーが湧くのに、どこかで出し惜しみしながら生きてるなあと感じた瞬間があって、「この先は自分が本当にやりたいことをやろう。自分の人生の舵は自分で持とう。」と、何の計画もないまま28歳のときに会社を飛び出しました。

サンワードラボ
最近は「テゲツーの長友さん」としての露出が多いが、コーチングやチームビルディングを行う会社「サンワード・ラボ」の代表という一面も。全国でチームビルディング、企業研修、エグゼクティブコーチングを行っている。

自分が成功できたのは、「宮崎」だったからと気づいた。

長友さん:
独立後は、コーチングセッションを事業としてやっていこうと考えていました。ネットで「宮崎 コーチ」で検索すると、あまり情報が出てこないので、これはチャンスだ!と。でも蓋を開けてみたら、宮崎には教育にお金をかける文化もないし、そもそも「コーチング」のことも全然知られていなかった。

そこで「宮崎コーチ会」を立ち上げ、各地で体験会をコツコツやり続け、少しずつコーチングの文化を広げていきました。コーチングは、資格を取得しても生業にできている人はあまりいないと思います。私はラジオ番組を持たせていただいていて、たくさんの人に活動を知ってもらえるという運の良さもあり、「人材育成のことなら長友さん」と仕事や相談を受けることが増えてきました。でも、これって私にスキルがあるからじゃなくて、宮崎で他にやっている人がいないからできてるんじゃないか?って。それに気づいてから、「私を育ててくれているこの宮崎に、もっと貢献できることもしたいな」と思うようになりました。

テゲツー
「ジャーナリズムイノベーションアワード2016」決勝プレゼンの様子。テゲツー!の記事はこちら(写真引用:宮崎てげてげ通信)

地元の人に「何で帰って来たの?」と言われることにカチン!

長友さん:
今でこそ、宮崎に移住したりUターンすると「良く帰ってきたね!」と歓迎されるムードがあるんですが、当時は宮崎に帰ったって言うと「なんで何にもないところに帰ってきたと?」と言われて。それにはすごくカチンときました。それと、県外の人に「宮崎=マンゴー」とイメージされるのも、嫌だったんです。それだけじゃないよ、宮崎の魅力は!って。

そこで、もっと宮崎の魅力を伝えたい。むしろ、住み続けて「当たり前」になっている地元の人にこそ、宮崎の価値を知ってもらいたいと思い、ローカルウェブメディアを立ち上げました。それが「宮崎てげてげ通信」、通称「テゲツー!」です。

きびだんご青井:
県外でのお仕事も多いようですが、今はどんなワークスタイルなんでしょうか?

長友さん:
本業のチームビルディングでは、最近「地域プロジェクトの促進」についても依頼を頂いています。具体的には、行政やNPO法人とチームを組み、私は第三者視点でコーチングし、プロジェクトに追い風を通すということをやっています。1ヶ月のうち、宮崎に10日、東京・関西に10日、残りが地方での仕事です。テゲツーの記事は、宮崎にいる間に取材をして、移動中に書いています。

コクリプロジェクトリクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンターが取り組む「コクリ!プロジェクト」にも参加されている。(写真引用:コクリ!プロジェクト)

若い子のチャレンジをもっと気軽に生み出す。そんな「てげてげ」な場所でありたい。

長友さん:
宮崎弁で「てげてげ」は「適当」って意味なんです。また、頑張り過ぎている人に「てげてげでいっちゃが〜」って言うと、「気楽にいこうよ〜」というニュアンスもあって。テゲツーが目指している「若い子のチャレンジをもっと気軽に生み出したい」というテーマにも、この「てげてげ」はピッタリ。今後も、メディアの顔をしながら、「自分たちの住みたい町を、自分たちの手で作る」をコンセプトに、ウェブだけでなくリアルな場づくりを丁寧にやっていきたいと思います。


この後は、「ぶっちゃけ皆さんどう稼いでるの?」という気になるテーマに突入!ゲストだけでなく、参加者も交えた懇親会となりました。ご参加頂いた皆さん、ありがとうございました!


ゲストプロフィール


株式会社仕事旅行社 内田靖之さん
1979年福島県生まれ。2002年、新潟大学卒業。建築会社に従事するなかで、もう一人の創業者である田中翼と出会い、新しい発見や気づきにあふれた“会社訪問の魅力”に気づき、大人向け職業体験サービス「仕事旅行」の企画に着手。2011年に仕事旅行社を設立。https://www.shigoto-ryokou.com


株式会社しくみデザイン 代表取締役 中村俊介さん
名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)にてメディアアートを制作しながら研究を続け、博士(芸術工学)を取得。2005年、世の中を楽しくするしくみをデザインするため、しくみデザインを設立。2013年にはインテルの国際コンテストで「KAGURA」が世界一になるなど受賞も多く、参加型サイネージやライブコンサートのリアルタイム映像演出等、UX分野の先駆者として数々の日本初を手がけている。http://www.shikumi.co.jp


宮崎てげてげ通信 会長/サンワード・ラボ株式会社 代表 長友まさ美さん
1981年宮崎市生まれ。2011年、宮崎県初となるコーチングの資格Certified Professional Co-Active Coachを取得。起業から6年間で延べ2000時間以上のセッションを行う人気コーチとなり、クライアントは、経営者、起業家、アーティスト、政治家、教師、会社員、同業のコーチ等、多岐にわたる。「経営者もスタッフも幸せに働ける会社づくり」をテーマに、企業研修、チームビルディング、エグゼクティブコーチングを実施。宮崎県内にとどまらず、日本全国で活動している。http://sunward-lab.com