愛知県大府市で「知財キュレーター」という肩書きで活動している女性がいます。二級知的財産管理技能士・行政書士の資格を持ち、特許事務所を独立。「ばんの行政書士事務所」を開業した坂野明日香(ばんのあすか)さん。ある奇跡的な出会いをきっかけに、これまで計4つのプロジェクトをkibidangoで立ち上げました。

「知財キュレーター」とは、知的財産を発掘する人の意。まだ誰にも知的財産として意識されていないモノ(化石)を、特許事務所で鍛えられた「知的財産を見る目」を通して、カタチ(知的財産)にしていきたいと坂野さんは言います。

彼女のモットーは、「とにかく人に会って、足で仲間を増やす」こと。その行動力とフットワークの軽さで、遂には「ロハスデザイン大賞」を受賞!今では数々のメディアにも登場。全くのゼロからのスタートだった彼女が、いかにして目標を達成してきたのか。ご本人にお話をお伺いしました。

ペレコ
坂野さんの代表作となったロケットストーブ「ペレコ」

すべては「土管ロケットストーブ」との奇跡的な出会いから始まった

坂野さん:
ロケットストーブとの出会いはまさに奇跡的。あの出会いがなければ、今私はここにいないと思います。

行政書士の資格も持つ坂野さん。行政書士事務所を開業してまもないある日のこと、「古物商の資格をとりたい」という問い合せが入った。依頼主のお店の現況調査に行ったとき、店の片隅に置いてあったのが「とこなめ土管ロケットストーブ」でした。

坂野さん:
その美しさにすぐ目が留まって。『知的財産権の出願をしないともったいない!』と。お店で埃をかぶって眠っている状態でした。そしたら、店のご主人に「開発者が悩んでいるから相談に乗ってあげて」と言われ、そこで紹介されたのが、後にタッグを組むことになる金田寿正さんでした。

LIFTOFF
パートナー・金田寿正さんとは「LIFTOFF(リフトフ)」というユニット名で活動している。真ん中が「とこなめ土管ロケットストーブ」

その後すぐ開発者の金田さんと連絡を取り合い、会うことに。しかし残念ながら「とこなめ土管ロケットストーブ」はすでに発表から半年以上が経過し、知的財産権の出願ができる状況ではなかった。

坂野さん:
そこで金田さんがすごかったのは、「もう一つ、新しいロケットストーブの構想がある。1週間以内に設計をするから、少し待っていてくれ」と。それで出来たのが、木質燃料ペレットを使用する「ペレコ」の原型でした。そこから、私と金田さんの二人三脚でのプロジェクトがスタートしました。

※ロケットストーブとは:薪、廃木材、枯れ枝などを効率よく燃やす事ができる構造で、自作のロケットストーブを作って楽しむ愛好家も多い。東日本大震災では、避難所で暖をとる方法として注目されました。

最初に話を聞いてくれたのが「kibidango」だった。

テレビで「クラウドファンディング」の特集を見て、ネットで一般市民から小口の投資を募るサービスがあることを知った坂野さん。これは利用するしかない!と、早速数社にコンタクトをとるが─。

坂野さん:
実は、kibidangoは3社目だったんですよ。最初の2社はすぐにお断りのメールがきて、それはもう2人でがっかりでした。

でも、kibidangoからは「話を聞かせてください」と連絡がきて。金田さんはめちゃくちゃ喜んでましたね!「ちゃんと(メールを)読んでくれて、電話もくれた!」って。当時金田さんはサラリーマンだったので、わざわざ休みをとって東京に行ったんですよ。その日の金田さんの輝いている顔は、今でも忘れません。

その後、無事に「ペレコ」のプロジェクトがスタート。では、2人はどうやって認知度をあげていったのでしょうか。

liftoff記念すべき1回目のプロジェクトでは「ペレコ」の商品化を実現。

Facebookグループに集まった強力な仲間達

坂野さん:
Facebookで「ロケットストーブの会」というグループを作っています。現在メンバーは1,576人。※2016年2月8日現在

ロケットストーブの会毎日のように投稿があり、かなり活発に交流が行われている。

グループの人集めに関しては、毎日作業時間を決めて、とにかく地道に声がけをやってきました。今では、毎日5~6件の参加リクエストがくるまで(しかも海外からも!)になりました。ちなみに、クラウドファンディングの支援を集めるときにも、同じように毎日時間を決めて地道な声がけをやっています。

クラウドファンディングは、いかに「人と会うか」が勝負!

坂野さん:
クラウドファンディング挑戦中は、自分で「全国行脚」をしてとにかく人と会いました。人とここまで会っているプロジェクトはなかなか無いんじゃないかな?と思います。あとは、プロジェクトは必ず何かのイベントのタイミングにぶつける。プロジェクトのことを、ネットだけで知ってもらうというのはすごく難しいんです。

(全国行脚について)基本的には、Facebookで「直接会いに行きたい!」とオファーしていました。幸い「ロケットストーブ」というコンテンツはファンが多く、環境・防災・教育など、様々な分野の人と会う事ができました。

広島イベント期間中は広島のイベントにも参加するなど、全国を周った。

いつも何かしら動きがあることを見せて、「おもしろそうだな」と思わせることも大事です。「(Facebookで)ずっと見てたんですけど、(坂野さんが)東京に来るのを知って会いに来ました」と言ってくれた人もいました。ネットでは一方通行の発信になりがちですけど、イベントでリアルな場に出ていけば、双方向になる。そこで初めて「お金を出してくれる」という行動に繋がるんだと思っています。たまにしか会わない人に、突然「買って」と言っても、買ってくれないですよね

ゼロから掴みとった「ロハスデザイン大賞」

坂野さん:
ロハスデザイン大賞は、大賞受賞の前年にも「とこなめ土管ロケットストーブ」で応募していたんですが、それをきっかけにメディアに取り上げて頂く機会が増えました。「ペレコ」が出来たのはその後です。

2014年に日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ」に参加したとき、ロハスデザイン大賞を制作運営している雑誌「月刊ソトコト」のブースに足を運んで、「ペレコ」を見てもらったんです。そこで「今、クラウドファンディングに挑戦しています。どうか見ててくださいね!」と。そしたら、その効果かどうかは分かりませんけど、誌面に載せてもらえたんです。そこでソトコトさんとの繋がりを作ることもできました。

「ペレコ」がロハスデザイン大賞を受賞して、地道なPR活動が全部無駄じゃなかったんだなと。自分たちの実力で勝ち取れた賞だ!って自負しています。


授賞式では金田さんが喜びのスピーチ!

「顔が見えない人」だけを相手にしていては成功しない

坂野さん:
クラウドファンディングは「魔法」じゃないんですよね。むしろ、「おもしろいかおもしろくないか」を評価される厳しい場所だと思っています。

プロジェクトは「やりたいこと」を明確にして、さらに『これは面白い!よし分かった支援しよう!』と約束してくれる人が1人でも見つかってからスタートするべきだと思います。それが無いうちは、土俵にはあがっちゃいけない。

クラウドファンディングは、「このプロジェクトを応援している人って一体誰なの?」というのが見えないんです。そこをどう見せるか。見せることができれば、直接知らない人も安心して支援してくれる。「ペレコ」も、イベント会場で知り合った環境系NPO法人の理事長さんが、ブログで紹介してくださったことで支援が一気に跳ねたんです。これって、その方の影響力もありますけど、プロジェクトの「推薦人」の顔が見えたからなんだと思います。

これからプロジェクトに挑戦する人達には、「決して1人でやってはいけない」と伝えたいですね。ペレコを支援してくださった方には、可能な限り直接手渡しもしました。クラウドファンディングではじまった繋がりはすごく濃いので、別のプロジェクトも「坂野さんが言ってるんだったら応援しよう!」と言ってくれる人も大勢います。やっぱりそれは直接会ってコミュニケーションをとっているからこそだと。

liftoffとにかく人に会って会って会いまくっている2人!

今後も今の活動を続けて行きたい

坂野さん:
今後も行政書士の仕事を続けながら、知財キュレーターとして活動していきたいと思います。「ロケットストーブの会」では、素晴らしいモノがたくさん、日々発表されています。創作者本人が知的財産と気がついていないことが多く大変もったいないので、お声がけさせてもらっています。申請前に発表してしまっている人が本当に多いんですね。「自分の作品は、自分できちんと守ろう」と口酸っぱく言っています。それが「知財キュレーター」の仕事であると思っています。

これまでの実績に期待して頂いて声がかかることが多くなり、行政書士としての各種補助金申請の仕事やクラウドファンディングへのアドバイスなどあれこれ問い合わせ多くなってきました。うれしい悲鳴です(笑)

LIFTOFFの新しいプロジェクト構想もすでにあるので、そちらも楽しみにしていてください!

坂野さんブログ坂野さんのブログはコチラ

ー坂野さん、ありがとうございました!